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「恐らく睡眠障害の一種だと思います。いや、私も専門外だから詳しいことは言えないんですけどね。たまにこういう子がいるみたいですよ。今年になって五回目ですか。食器や窓ガラスを割ったから気付けたものの、ひょっとするともっと多い可能性もある。玄関の鍵を開けて外に出たという例もありますからね。家庭の事情があるのはわかります。だけど用心しておかないと、手遅れになってからでは遅い」
真織はただ呆然としながらその説明を受けた。
夜勤明けで家に帰る朝、まだ7時過ぎなのに決まって貴絋は家にいなかった。キッチンへ行くと時々割れた食器がフローリングに散らばっている。貴絋がやったのだとすぐにわかった。他に誰もいないのだから、そういう答えに行き着くのはごく自然な流れだ。
しかし貴紘を怒る気にはなれなかった。自分達の都合で別れた。それが貴紘にとっては不安でありストレスであり辛いことなのだと始めからわかっていたからだ。
今朝真織が仕事から帰ると貴絋の靴がそこにあったので、まだ出掛けていないのだと思ったのもつかの間、玄関に一番近い貴絋の部屋のドアが大きく開いていることに気が付く。そこから吹き込む冷たい空気が、顔に張り付いた前髪を撫でていった。部屋の中を覗くと、カーテンが珍しく開かれている。その奥に見える窓ガラスは割れており、ベッドのシーツには何ヵ所も血の跡が見られた。
「貴くん!」
リビングへの開かれたままのドアを押し開けると、ソファで眠る息子がいる。右手は負傷しているがそれ以外は問題なさそうだ。
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