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「誰にも言わないで……お願いだよ。そんなことされたらおれ、きみの事きっと恨んでしまう」
「お前に恨まれたところで俺にデメリットないし……恨みたきゃ恨めば」
にべもなくそう言い切った貴紘に、直也は眉尻を下げるしかなかった。
□
玄関を開けるカギの音が響き、貴紘は飛び起きた。カーテンの隙間からは明るい光が差し込んでいる。横を見ると、直也はまだ眠っていた。起こさないようにそっと彼をまたいで部屋を出る。
真織がクマの出来た疲れきった顔で貴紘を見るなり言った。
「ごめんね……結局朝になっちゃった……」
「別に問題ねーし。……友達、来てるから」
その言葉を聞いた途端、真織の顔色が変わる。
「あら! あらあらまあまあ! ごめんね、お母さんこんなヨレヨレな格好で……すぐ朝御飯作るねッ!」
大丈夫寝てろと言ったのに聞かなかった。貴紘は昨日のババアの事を思いだし、また暗い気持ちになる。
あなたがいなければまだ真織はやり直せるんです。
その言葉が胸に打たれた杭のように、痛いところをずっとチクチクといじめ続けた。
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