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「フーン。俺もついてく」
直也は不思議そうに首をかしげる。
「……きみ、おれの事を嫌いなんだよね? どうして力になってくれようとするの?」
「俺しか知らないからに決まってんだろ」
嫌いだなんて気持ちは、もうとっくの前に無くなっていた。だけどわざわざ否定するほど大人でもない。――っていうか恥ずかしくてそんなこと言えない。
「ありがとうって言ったら、母さんが悪いみたいに思えるから……」
「悪いだろ、ほら行くぞ」
貴紘はブルーの傘に決めた。長くて重たい、大人用だ。
□
「辻くん……聞いていい?」
「ダメ」
歩いて数分、無言の空間を打ち破ろうと直也が入れたジャブを貴紘はひらりとかわした。
――ここで光一なら食い下がるんだけど。
直也はショックを受けたように地面を見つめて歩き続ける。
「なんだよっ! さっさと聞けよ」
「えっ いいの?」
「聞いていいかなんて聞かれたら断るだろフツー。回りくどいこと言わねーで単刀直入にしろよ」
フツーはそうなんだ、素直な直也はそう思った。しかしひねくれた貴紘のフツーはたぶん普通ではない。
「……昨日のお婆さんの事、お母さんに言わないの? あのお婆さんって辻くんのおばあちゃん?」
「人の家庭の事に首突っ込むな」
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