オムレツ

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「その台詞そのまま返したいよ」 「……お前ツッコミできんじゃん」  もしあのとき直也がいなかったら、今直也の事に心を注いでいなかったら。きっとくよくよ悩んでいたに違いない。貴紘はそう思った。そりゃいまでも、時々嫌な気分になってしまうけど……。それでも今直也が心と体に負っている痛みを思えば、それどころではないと、忘れることができる。だから貴絋は、今は考えないようにしていた。  だけど直也に聞かれると、それは答えてやらねばフェアでない気もする。 「……たぶんそうだと思う。俺、母さんの親戚に一度も会ったことなかった。俺の父親……再婚なんだ、俺を連れて。母さん結婚に反対されてたんだなって昨日思った。案の定リコンしやがってダッセ……。だからきっと俺、嫌われてて、会ったことなかったんだ」  そこまで自分で口にして、やっと真織が両親の事を隠した意味がわかった。  そりゃ言えるわけない。俺、嫌われてんだもん。  嘘をつかれたと地味にショックを受けて被害者ぶった心を少し反省した。よくよく考えれば、むしろ俺のせいで結婚にも反対されたようなもんだ。誰だって大切な娘を、コブ付きの男なんかと結婚させたくないに決まっている。確かに、俺がいなければ。     
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