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信玄餅
直也のマンションは、貴紘の家から15分ほど歩いた場所にあった。エレベーターを降り部屋のドアの前まで来て直也は足を止める。
彼はなかなかドアを開けようとしなかった。当たり前だ、怖いに決まっている。
「大丈夫か」
「うん、平気」
直也はパンツのポケットからカギを出そうとして、それを落とす。カギは床を滑って貴紘の足元に落ちた。
「ん」
カギを拾った貴絋は、直也にそれを渡そうとして気付いた。そして彼の手を握る。直也の手は遭難者のように冷たく、それに震えているではないか。
「一緒に行こうか?」
ここで待っているつもりだった。もちろん何かあればこのブルーの傘で殴り込む準備は出来ている。
二人の少年は、しばらくそこで手を繋いだまま立っていた。時折通りすぎるマンションの住人は、好奇と心配の宿る目で彼らを無遠慮に見る。
「辻くん……、いま、きみとこうしていることが、信じられない」
突然口を開いた直也の言葉を、貴紘は静かに聞いた。そして、返す。
「俺もだよ」
「最初、きみのこと嫌いだった。光一と突然仲良くして……腹が立ったんだ」
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