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昨日自分が洗濯した、干しっぱなしのシャツを乱暴に引っ張るとハンガーがひっかかり、洗濯物が全て床に落ちる。貴絋は怒る気にも片付ける気にもなれずに洗面所をそのまま後にした。
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「俺達、離婚するから」
忘れもしない今年の二月十六日、両親が珍しく家にいると思えば、出てきた言葉はこれだった。しかもその日は貴絋の誕生日。もともと仲が良いとは言えなかった両親が、まさか息子の誕生日にそんな宣言をしてくれるとは、とんだサプライズだ。
二人の顔を見ることもしないで貴絋は言った。
「どうぞご自由に」
――俺が何を言ってもどうにもならない。
自分の誕生日のために、二人が休みを合わせて祝ってくれるんだ、などと少しばかり期待していたコトが恥ずかしい。部屋を出ようとしたとき父親が言った。
「貴紘、俺と母さん、どっちと暮らしたい」
死ねと思った。
――俺に決めさせて責任被せるつもりかよ。どうせ二人とも、俺を引き取りたくないんだ。それで俺に決めさせようってことか。知るかそんなこと。
「そっちで勝手に決めろよ」
二人の顔すら見ずに、後ろ手でドアを思いっきり閉めた。ドアに嵌め込まれたガラスの窓が、全部割れればいいのにと思いながら。
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時計を見た。まだ6時半だ。この時間ならさすがに学校へ遅刻しない。ゲームをやりこんだせいで昨日寝たのは深夜だったが、仕方なく準備を始める。
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