焼き塩鯖

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 昨日自分が洗濯した、干しっぱなしのシャツを乱暴に引っ張るとハンガーがひっかかり、洗濯物が全て床に落ちる。貴絋(たかひろ)は怒る気にも片付ける気にもなれずに洗面所をそのまま後にした。  □ 「俺達、離婚するから」  忘れもしない今年の二月十六日、両親が珍しく家にいると思えば、出てきた言葉はこれだった。しかもその日は貴絋の誕生日。もともと仲が良いとは言えなかった両親が、まさか息子の誕生日にそんな宣言をしてくれるとは、とんだサプライズだ。  二人の顔を見ることもしないで貴絋は言った。 「どうぞご自由に」  ――俺が何を言ってもどうにもならない。  自分の誕生日のために、二人が休みを合わせて祝ってくれるんだ、などと少しばかり期待していたコトが恥ずかしい。部屋を出ようとしたとき父親が言った。 「貴紘、俺と母さん、どっちと暮らしたい」  死ねと思った。  ――俺に決めさせて責任被せるつもりかよ。どうせ二人とも、俺を引き取りたくないんだ。それで俺に決めさせようってことか。知るかそんなこと。 「そっちで勝手に決めろよ」  二人の顔すら見ずに、後ろ手でドアを思いっきり閉めた。ドアに嵌め込まれたガラスの窓が、全部割れればいいのにと思いながら。  □  時計を見た。まだ6時半だ。この時間ならさすがに学校へ遅刻しない。ゲームをやりこんだせいで昨日寝たのは深夜だったが、仕方なく準備を始める。     
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