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貴紘は緊張しながら、直也が帰ってくるのを待った。晴天なのに大きな雨傘を持っていることが、大人の目にはおかしく映るのかもしれない。さっき通りすぎた中年の女性がまた貴紘をじろじろと見た。
貴紘は、被っていたキャップのツバを深く沈めた。
もし、直也の話を母親が聞いてくれたとして、わかってくれたとしても、これから先どうしてやればいいんだろう。
もし、これまで以上に二人の関係が悪くなってしまったら、自分に責任がとれるのだろうか。自分は、踏み込みすぎてしまったのではないか。
どんどん嫌な風に思考が偏ってきてしまう。
だけど、絶対にあのままではいけなかった。
貴紘はそう思い直すと、耳を澄ませて直也の帰りを待った。
実の母親の前で一生懸命にいい子に振る舞う直也。それなのに、傷つけられる。
養母に心を開くことができず、ひねくれた態度をとってしまう自分。それなのに、彼女はいつも優しい。
二組の母子の間に一体どんな隔たりが、違いがあるのか、貴紘には全然わからなかった。
ずっと自分の黒いスニーカーを眺めながら考え事をしていた貴絋は、激しい破壊音に硬直した。食器が割れるような嫌な音。うっすらだが女性の叫び声も聞こえた。
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