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貴紘はすぐに直也の家のドアを開け、靴も脱がずに部屋に駆け込んだ。入った瞬間に、何日も窓を開けていないような匂いと酒臭さが、貴紘の鼻を刺激した。短い廊下を三歩で抜けると、リビングへ通じる扉を開ける。するとすぐに、座り込んだ直也と、その目の前に立つ彼の母親らしき女性の鬼の形相が目に入った。
女性は驚いて貴紘を見る。
「あんた誰! 何で勝手に入ってきてんの!?」
貴紘はそれには答えずにすぐに直也に駆け寄る。
「大丈夫か」
直也と同じ目線になってはじめて気付く、フローリングに散らばったガラスの破片。先ほどの音はこれかとすぐにわかった。直也の足には、今出来たばかりの軽い切り傷がある。
「直也。勝手に友達連れてきてんじゃないわよ、あんたどこの子!? 早く出ていって」
貴紘は直也の顔をよく見た。もう希望は見えない。あるのは涙と、諦めだけだ。
「ちゃんと……言えたのか?」
貴紘は念のために聞いた。直也は震えながら頷き、新しい涙をこぼした。
「あんたが変なこと言わせたの? 他人の事情に口出ししないで。あたしが産んだ子供をどうしようがあたしの勝手でしょう! 産んでやったの、このあたしが」
「行こう」
貴紘は直也を立ち上がらせると、背中を支えながら扉へ向かう。
早くこの女から直也を離さなくては。もう、声を聞くだけで限界だった。今までに感じたことのない酷い怒りが、心臓をわし掴むように執拗に何度も腹の方から沸き上がってくる。
「待ちなさいッ! 直也!」
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