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母親が直也の腕を引き振り返らせると、次の瞬間には彼女の手が直也を攻撃しようと振り上がっていた。
貴紘の堪えていた怒りを塞き止めるものがこの瞬間に壊れて消える。
「いい加減にしろ」
直也が受けるはずだったビンタは、貴紘の右手が受け止める。母親は予想できない展開に言葉を失った。
「産んでやっただと? ふざけんな。別に頼んでない、勝手に産んだんだろ! なんで自分の子供傷付ける? 無抵抗の直也をぶん殴って何が楽しいのか教えろ!」
貴紘の両目からは不覚にも涙が溢れた。
自分よりも10センチ近く身長の低い直也が、この家の中ではさらに小さく見える。いつもこんな部屋で、こんな女に傷つけられていたのかと思うと、どうしようもなくやるせなくなる。
「お前みたいなバカ女を大好きだって言ってるこいつが可哀想じゃねーかよ!!」
直也が力を込めて貴紘の腕を握ったのを感じた。直也の気持ちを考えると、情けなくてたまらない。
「うるせぇな……。なんの騒ぎ?」
突然リビングの突き当たりにある襖が開き、半裸の男が眠そうな顔で現れた。その男を見た途端、直也の表情が一気にこわばる。
「託児所じゃねぇんだぞ。黙らせろよ」
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