信玄餅

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「やめてよ……友達に酷いことしないで」  直也が庇うように、貴紘と二人の間に入った。  貴紘は床に落としたままになっていた、ブルーの傘を見つけると、それを手繰り寄せ柄を静かに握りしめる。 「親に反抗しようってのかい? 生意気な態度を取るんじゃないよッ!」  直也を蹴った健康スリッパを見て、貴紘はショックを受けた。  こんなことを日常的に?  狂ってる。  もう一度唇の血を腕で拭うと、貴紘は立ち上がった。 「親語る以前に、人間ですらねーよ。お前も。何も思わねーのか!?」  貴紘は男を睨み付けた。  男は、傘を握った貴紘の様子を見ると、テレビの横に置いてあった木製のバットを手に取る。貴紘の目をじっと見つめてから、バカにしたように笑いながら言った。 「そうだそうだ、殴るならこういう生意気な子供(がき)の方がいいんだ。その大人を舐めきった目、安全な所で守られてきた、世界を知らない平和な頭を力でねじ伏せるのが最高に気持ちいい。どうせ甘やかされて大切に大切に育てられてきたんだろ? そんな奴が絶望を知る瞬間、想像するだけでもたまらない。泣きながらママ呼ぶ顔はさぞ可愛いんだろうな」     
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