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ココナッツ
「"食べたかった"じゃなくて、食べるのよ!」
そこにいる貴絋の身体を別人が支配していると、当人以外は誰も知らなかった。
男の振り下ろしたバットをララは傘で受け止めた。それでも男は尚バットを押し付け続ける。まさかこんな子供にかわされるとは……そう思った男はすべての力をバットに込めた。
「なんだ、お前……」
明らかに表情が変わった、顔つきが別人になった少年を見て、男は驚く。
皮肉なことに死者のそれは、貴紘の本来の顔よりよっぽど生き生きとしていた。
「知らないの? ヒーローは遅れてやってくるのよ」
それにしたって、この子供は退かない。なんなら表情に余裕すら見える。――さっきまでは諦めたようなカオしてたのに……!
一瞬見えた男の隙に、ララは押さえる力を突然抜いた。するとその反動で男はバランスを崩す。素早く身を翻したララが仰向けに倒れた男の眼球に傘を突き立てようとするまで、そこにいる誰もが動けなかった。
「直也の痛みを知りなさい」
迫り来る傘の先端を見て、男は変な声で叫ぶ。
「や……やめてくれぇッ!!」
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