目玉焼き

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 部屋の割れた窓には、取りあえずの処置として段ボールが不細工に貼り付けてある。真織は昔から不器用だった。料理も下手だ。どちらかというと要領のいい貴絋は、そんな真織の不器用さを時々見下しては苛立った。  □  今朝はちゃんとアラームの音で目覚めた。起きてすぐにベッドから降り、部屋と自分の身体を見た。何も異変はない。右手を握りしめてみる。もう昨日ほどの痛みはなかった。貴絋が着替えてすぐにリビングに向かうと、すでに真織は起きていてキッチンでせわしなく動いている。 「学校行ってくる」 「朝御飯食べていきなさい!」  手を拭きながら小走りで寄ってくる真織の顔には、クマが浮かんでいる。寝ていないことが一目瞭然であった。自分のせいだ。食べない、などと言えるはずがない。  渋々テーブルにつくと、真織も向かいの席に腰かける。 「貴くん、いつも一人にさせてごめんね」と真織が言った。 「別に不都合ないんだけど」  即座に言い返したが、真織は黙って貴紘を見つめる。 「おいしい?」  貴絋が裏側の若干焦げた目玉焼きを食べかけたとき、真織が問いかけた。 「白身焦げてんのに黄身が半熟なのが好みじゃない」 「ふふ、厳しいなぁ。明日は頑張るね」  真織は何を言っても怒らない。これも、昔からだ。  ――俺だったら絶対キレてる。まさかボケてんじゃねえだろうな。 「ごちそうさま」  手早く食器をキッチンに下げると、貴絋は真織に聞いた。     
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