目玉焼き

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 花枝がそう言ったあと、手を挙げて体育の授業は終わりとなった。まだ新しいバスケットボールが、いくつか生徒たちの足元に転がっている。 「辻くん、かっこよくなかった?」 「わかるー、やっぱ運動できる男の子っていいよね」 「利き手ハンデあるのに決めちゃうのがね~」  貴絋はボールを片付けながら、遠くでヒソヒソと話す女子の声を耳にした。女は嫌いだけど、誉められて悪い気はしない。ボールを持っているとき、少しだけ生きてる感じがした。いつもは全然話しかけてこないクラスメイトも、スポーツのときだけは近くに感じる。たまには身体を動かすのもいいかもしれない。  しかし、休んでいる間に勝手に決められてしまったクラス係は結構面倒なものだった。貴絋は体育係になっていた。体育の後は必ず花枝にこき使われる。月曜日は、光一が手伝ってくれた。しかし今回は彼は貧血で保健室だ。彼は貴紘と違って魔力があるはずだったがどうしたことだろう。  体育館の倉庫にボールのワゴンをしまい終え、一息ついた瞬間、血圧が一気に下がる感覚を覚える。途端に目眩が貴紘を襲った。  ――絶対朝の儀式のせいだ……。  まだ体力は回復していなかった。(つく)ねてあるマットに腰を掛けた瞬間、ドアが閉まってガチャリと音がする。とてつもなく嫌な予感が脳裏を掠めた。     
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