ハンバーグ

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ハンバーグ

 貴絋(たかひろ)が三年生の時、父方の祖父の家に一人で遊びに行き、夏休みを二週間そこで過ごした。すでに両親は不仲で顔を合わせれば言い合いばかり、自分の部屋にこもっていても二人の穏やかでない声が暇なく耳に届く。貴絋は逃げるように祖父の家へ向かった。  新幹線で四時間、予想以上の解放感が貴絋の歩みを弾ませた。駅の改札口で迎えてくれた祖父の笑顔を見ると、さらに心は軽くなる。しかし貴絋はそこへ滞在中、自分と母親(真織)の血が繋がってないことを知った。  祖父は父と同じに適当な性格だ。その血を貴絋自身も受け継いでいることを自覚している。面と向かって言われたならつまらない冗談だと受け流すことができたのに、聞いたのは自然な会話の流れからだった。違和感の点が日を追うごとに繋がっていく夏休み、それは最終的に一本の線になった。  祖父は、貴絋はすでに知っているものと思っていた。貴紘は動揺したが、顔には出さなかった。元々、感情表現が豊かな方ではない。  最終日の夜、祖父の家のベランダで一人で泣いた。     
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