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父の正人が、貴絋の目をじっと見つめてそう言った。いつもふざけてばかりで、父親というより友達みたいな人だった。こんなときだけ真面目な顔をするんだなと思ったら、正人の視線を受ける事にとてつもなく嫌悪感を覚えた。真織の方を見る気も起きない。彼女の鼻をすする音だけが時々聞こえた。何に対して悲しみを感じているのか知らない。
こんな風に子供に重大な選択を迫ることが、どれほどの負荷を与えているか本人たちは気付いていないのだろうか? 一見子供の意見を尊重しているように思えるが、そんなことを聞かれた側はたまらない。ランチのメニューを決めるのとはワケが違うのだ。
大体、真織と自分は血の繋がりがない。それなのになんでそんなことを自分に決めさせるのか。
――俺が知らないふり続けたら、いつまで隠すつもりなんだろう。
胸がどきどきして、悲しくなった、腹が立つ気持ちもあった。とにかくもう真っ暗だ。
ついに泣いて謝ろうかとすら思った。
いままでごめんなさい。これからは、いい子にするから、どうか僕を捨てないで。みんな仲直りして、昔みたいに三人で仲良く暮らしたい。もう二度とワガママ言わないから。
そう言えてたら、少しくらいいい方向に進んでいたのかと今でも思う。だけど貴絋は、そんな風にしおらしく言えるほど素直な子供でもなかった。父親に似たからだ。
それに何を後悔したって、今さらもう遅い。
□
息苦しさを感じて、思わず目を開けた。咄嗟に顔に手をやると、汗をびっしょりかいている。辺りは真っ暗で何も見えない。
「あ……、夢か」
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