ハンバーグ

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「僕はないけど、よく母さんがコンタクトを外した記憶がないのに外れてる、目が見えないって騒いでる。あと、お菓子を食べた記憶がないのに無くなってるとか」  貴絋はやっと光一の顔を見て、目を丸くする。 「お前の母さん、面白いな」  小さく笑った貴絋の横顔を眺めながら光一は言った。 「何かあったの?」  貴絋はあからさまに困ったような表情を浮かべて答える。 「……いや、べつに」  嘘つき。光一はそう思った。  □  午前の20分休みの時、光一が言った。 「一緒に図書室行かない?」  休み時間に光一に誘われるのは初めての事だった。  貴絋は光一の顔をまじまじと見ると、少しだけ間を置いて答える。 「……俺と?」 「うん、行かない?」  貴絋が即座に気まずそうな表情を浮かべたのを見て、光一は違和感を覚えた。貴絋は嫌な事ははっきりと「イヤだ」という性格だ。図書室に行きたくないのなら断ればいい。それなのに、どこかそれをしたくないという素振りを光一は垣間見たのであった。 「いいけど……お前の友達は?」 「今日は、いいんだ」 「……ふーん」  のろのろと席を立つ貴紘を見ると、本当に今日は様子がいつもと違うと改めて感じる。いつもの様子が海底にゴロゴロと転がっている新鮮なウニなら、今日の貴絋はスーパーに売られて半額シールを貼られた詰め合わせパックの軍艦巻きだ。     
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