ハンバーグ

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 しかも好きな恐竜のセンスがいいし、ジュラ紀に産まれていたらどうやって生き延びるかの知識もあった。何より、なぜか知らないけど自分に臆面なく接してくる。正直に言うと光一のとなりは居心地が良かった。 「あ、博物館でいま恐竜展あるの知ってる?」  突然思い出したように顔を上げた光一が言った。 「知らない。誰が来んの」 「ブラキオサウルスの模型に餌やり体験できるって」 「マジかよっ。それ最高じゃん」  光一の瞳が、期待を込めた色で輝く。 「一緒に行かない?」  貴絋は言葉に詰まった。どうやって断ろうかと、そればかりが頭を埋め尽くす。光一の顔を直視できず、視線がさ迷った。 「行こうよ! 僕ずっと行きたかったのに一緒に行く人いなくてさ~。姉ちゃんは恐竜嫌いだし、やっぱこういうのって趣味が合う人と行った方が楽しいでしょ? 絶対僕たちなら楽しめるよ」  そんなことは分かっている。しかし貴絋は、踏み込むのを恐れた。踏み込めば踏み込んだ分、その先に待つものが重くなるのだと彼は知っていた。その考えが貴紘を必要以上に臆病にさせる。 「そーいえば辻くんの家ってどこなの?」 「……A駅のすぐ近く」 「じゃあ電車で行こうよ。土曜10時に駅で待ってるね」 「まだ行くって言ってな……」 「決定~!」  貴絋のなかで、この光一の誘いを断ることが踏み込むのと同じくらい勇気がいることだというのを、このときまた感じた。     
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