焼き塩鯖

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 教室のドアを開けると、もうすでに誰かがいた。机の上に何か広げてにらめっこしている。自分の隣の席の少年だけど……名前が思い出せない。  それに、登校したのは自分が一番最初だと思っていたので若干面食らった。  その誰かも、貴絋の存在に驚きを隠せないようだった。その人物は貴絋の姿を認めると、すぐに机に広げていたものを隠した。 「おっ、おはよう! 辻くん!」  ごまかすように大きな声で挨拶をして来る。  見てはいけないものを見たのか? 貴絋は気づかなかったふりをしようと思ったが、その少年の挙動があまりにも不振だったのでつい構いたくなった。 「18禁? 俺にも見せて」 「え!? ち、違うよ……」  少年は顔を赤くして否定した。思ったよりもつまらない反応だ、そう言わんばかりの表情で貴絋は席についた。  静かな教室に二人もの人間がいるというのに、そこに響く音はない。お互い黙りこんでいる。貴絋は頬杖をついたまま、黒板の上に掛けてある時計を眺めた。 「辻くん……久しぶりだね!」  沈黙に耐えきれなくなったのか、先に口を開いたのは先程の少年だ。どこか自信のなさげな声は、よほどの勇気を振り絞ったのだとも思える。  貴絋はその少年を横目で見た。 「お前だれ? 転校生?」     
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