お弁当

3/7
前へ
/389ページ
次へ
 最悪自分で作らなければならない。絶対に嫌だった。貴紘は料理が出来ない。しかしそれは自分の都合で、光一に迷惑をかけるのも違う気がした。貴絋は取り合えず腹をくくり、「行く」とだけ言った。弁当のことは、後で考えよう……。そう言い聞かせて。  憂鬱な気分を抱えたまま、適当に光一の話に相槌を打つ。突然耳鳴りがして、また頭の中にあの声が響いた。  『私がお弁当作ってあげるよ』  貴絋は思わず立ち上がってしまった。クラスメイト達は思い思いに話し合いをしていて、貴絋のおかしな様子に気が付くものはいない。それに、この変な声が聞こえている様子もない。貴絋の相手の光一だけが、彼の突然の奇行に驚いた。 「何、どうしたの」  貴絋の顔は真っ青だった。 「顔色悪いんじゃない? 辻くん大丈夫?」  貴絋は信じられないという気持ちを押さえながら、何とか座り直した。 「え……、ああ、平気」  ――怖い。  自分にだけ聞こえているこの声が、空耳や幻聴じゃなかったら、一体なんなのだろう。空耳であって欲しい。だけど、そう言い聞かせるのには無理があるほどに、はっきりと聞こえたのだ。  もしかしたら、ヤバい病気になったのかもしれない。そうなると説明がつく。知らないうちにガラスや食器を割ったり、記憶がなくなっていたり。  俺はどうしたら? 誰かに相談する? 誰に? そんな奴いない。 「……くん、辻くん!」  気が付くと瞼を落としていた。光一が心配そうに覗きこんでくる。     
/389ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加