お弁当

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「……悪い。何だっけ」 「ほんとに大丈夫? 調子悪そうだよ」 「気にすんな」  気のせいだ。そうだ、寝たら治る。もう考えるのはよそう。考えたって解決策が浮かばないし。  頭を振ってもう考えないことにした。  今は自動車工場のことを考えないと。  『聞こえてるんでしょ?』  またあの声が聞こえる。瞬時に鳥肌がたった。  ……うるせぇ。  貴絋は心の中でそう思った。  『そんなに怒らないで? お弁当なに入れて欲しい?』  心の中で言った言葉にその声が反応する。会話ができることが恐ろしくも興味深くもあった。 「知らん奴の作った弁当とか無理!!」 「えっ何の話」  光一が目を丸くして貴絋を見つめた。貴絋は、思わず声に出してしまった事に自分自身も驚く。 「あ、いや、いまのは……」 「なんだ~。深刻な顔してると思ったらもうお弁当のこと考えてたの?」  光一は肩を震わせて笑った。そんな光一とは対照的に、貴絋はどんどん苛立ち始める。得体の知れない声がますます鮮明に聞こえてくる、自分の意思とは関係なしに。 「他人の弁当無理ってどういうこと? お母さんのがよっぽどおいしいんだね」 「……やめろ」  だめだ、こいつに当たるのは。     
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