お弁当

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 しまったと思った。光一の悲しそうな顔を見た瞬間、貴絋は死にたくなった。反面、遅かれ早かれいつかこうして傷付けただろう、などとどこか冷静に見ている事にも気が付く。自分のそういう面が大嫌いだった。  教室が一気にシンとして、視線が集まるのをいやというほど感じる。 「どうしたの!?」  担任の花枝が立ち上がってこちらに歩み寄ろうとしている気配を感じた。  光一は目に涙をためると、小さく「ごめん」と謝って逃げるように教室から出ていった。  主のいなくなった椅子を見て、貴絋の手は震えた。何年も前から空いていた心の隙間に新しく冷たい別の風が吹き込んだのを感じ、取り返しのつかないことをしてしまったんだと思った。 「松葉くんどこへ……!? 辻くん、なにがあったの? 」  花枝があたふたしながら問いかけるも、貴絋は俯いたまま口を開かない。  どこかでガタと椅子を引く音がして、誰かが近付いてくるのがわかった。その影が貴絋の顔にかかりようやく顔を上げると、明吉が不機嫌そうな顔で貴絋を見下ろしている。 「おまえ……バカじゃん?」  怒声と共にパチンと乾いた音と鋭い痛みが、貴絋の左頬に走った。教室の所々から、か弱い悲鳴がいくらか聞こえる。明吉(あきよし)は貴絋の腕を引っ張りあげて席を立たせようとしていた。 「ちょっと顔貸して」  反論する気持ちも起こらず、貴絋は従順に席を立った。殴られたい気分だ、丁度いい。     
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