サンマ

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サンマ

「ねえ辻くんが帰ってきてないんだけど」  花枝先生は大量の漢字プリントを置いて、職員会議か何かに出掛けた。学級委員の明吉はそれを皆に配りながら、その光一の問いかけがあるまで貴絋の不在に気が付かなかった。 「ほんとだ。誰か知らない?」  プリントを配る手を止め、明吉は聞いた。だが、誰も答える者はない。しばらくして、ようやく遠くから男子生徒の声が上がった。 「辻って体育係じゃなかった? まだ片付けてるんじゃないの」  誰かがそう言ったのを聞いて、光一はすぐに言った。 「辻くんケガしてたの、みんな知ってるでしょ? 誰も手伝ってあげなかったの?」  明吉は光一の言葉に驚き、そこまで気が回らなかった自分を反省する。 「そっか、そうだったよな。気が付かなかった。悪いことしたな……ってか、体育係もう一人いただろ? 女子。知らないの?」  明吉の言葉におずおずと手を上げたのは、文美(ふみ)だった。 「それ私。でも私先帰っちゃった、ごめん。だって、彼いつも休んでるでしょ? その間はいつも一人でしてるんだもん。それに辻くん、ちょっとコワいし……」 「だよね、文美ちゃんのこと責めないで」     
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