サンマ

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「たまに来てる時くらい一人でやってもらったっていいじゃん」  一瞬で"文美ちゃんを守る女子の会"が出来上がり、明吉はそれ以上追求することができなくなる。 「ってかケガしたのとかアイツの都合じゃね? なんで俺達が手伝わなきゃならないの?」 「そもそもなんでケガしたの?」 「中学生とケンカしたって聞いたよ」 「こわい」 「俺はサンマを9枚に手刀でおろしたときに出来た傷だって聞いた」 「もっとこわい」  徐々に騒がしくなる教室に不穏な空気が満ち始める。光一が反論しようとしたとき、いつも彼がよく行動を共にする友人が突き放すように言った。 「またサボって帰っちゃったんじゃないの? だって辻くんって……不良みたいだし」  光一は思わず眉をしかめる。  そもそも着替えを置いたまま帰るはずがない。そんなことがあったとしたらそれは異常事態だ。確かに彼は休みがちだけど、別に不良ってわけじゃない。もちろん、近寄りがたい雰囲気がないと言えば嘘になる。だけど何も知らない人達に、こんな風に言われるのは嫌だった。 「父親がいないからって甘やかされ過ぎなんじゃないの」 「おい! それ言い過ぎだから」  明吉が反射的に叫ぶと、教室は一気に静まり返った。  一方光一は今にも泣きそうな顔で、静かに立ち上がる。     
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