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「クラスメイトのことをこんな風に心配できないってことが、僕は寂しい。確かに辻くんは皆と仲良くしようって感じじゃないけど、彼は皆のこと悪く言ったりしないよ。ちゃんと係もやってる。皆に、辻くんと仲良くしてくれなんて言わないけど、だけど」
光一の震える声に、クラス全員が注目した。
「僕の前で、僕の友達を悪く言わないで」
光一はそれだけ言うと、椅子を引いてドアを目指した。明吉は慌てて光一を呼び止める。
「辻くんを探してきます。体育館へ」
そう言うと、静かにドアを閉めた。
「オレも行く、みんなは漢字やってて!」
手に持っていたプリントの束を教壇に押し付けて、明吉は光一を追い掛けた。教室はそのまま静けさを守った。
明吉が教室を出て走ると、すぐに光一に追い付いた。
「松葉、待ってよ。オレも行くから」
光一の顔を盗み見るともうそこに悲しみの色はなく、普段のあどけない表情に戻っていた。それでも、明吉に気付いた光一は途端に不安そうな顔になった。
「僕さっき激情に駆られて何言ったか覚えてない……どうしよう」
「普段おとなしい奴がキレると怖いってマジなんだな」
爽やかに笑った明吉が眩しい。学級委員としての責任感もあり、とても頼れる男だ。
「えっ どうしよう僕キレてたの?」
「ウソウソ、変なことなんて言ってない。松葉、かっこよかったよ。たぶん皆反省してるから許してやってよ」
二人はそのまま歩きながら、体育館の鍵をもらいに職員室に向かった。
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