オムライス

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オムライス

 背中を預けている壁は冷たく、貴絋の体温をどんどん奪っていった。光一が言ったという言葉が、態度が、とても嬉しいはずなのに、その嬉しい気持ちが大きなほど貴絋の心を苦しめる。 「ちゃんと松葉に謝れよ? 仲直りしろよ、ゼッタイ」  明吉が言った。  他人だからそんな風に気軽に言える。  あんなことを言ってしまったんだ。許してもらえるはずがない。自分で、突き放した。 「……俺もうアイツに合わす顔ねーよ」  思わず口をついて出た小さな声を、明吉は聞き逃さなかった。 「大丈夫だから!」  突然明吉が立ち上がって貴絋の肩を掴んだ。貴絋が驚いて明吉の顔を見ると、にっこりと笑って言った。 「貴絋、お前今泣きそうな顔してるもん。松葉のこと大切に思ってる証拠じゃん。絶対わかってくれるって」  その笑顔を見ながら貴絋は思った。  自分もこんな風に素直な性格なら良かったのに。  □ 「えっ!? 帰った?」  最終的に保健室に立ち寄った貴絋と明吉は保健師に、光一は早退したと教えられた。 「担任の先生には内線で連絡しといたわよ。貴方たちも早く教室に戻らなきゃ」  よっぽど傷付いたらしい。貴絋はますます死にたくなった。 「……俺も帰ろうかな」     
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