オムライス

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 まどろみの中、女の声が頭に響いて飛び起きる。目に入ったのは、カーテンの隙間から入り込む白い光。もう朝だ。 『早く起きて』  またあの声が聞こえた。貴絋はつい声に出してその声に答える。 「いま気分サイアクだから話しかけてくんな」 『早く支度して駅に行かなきゃ。今日はあの子と約束してるんでしょ?』  それは、昨日の晩から貴絋もずっと考えていた事だった。結局うやむやになってしまったあの約束が、今でも有効なのかどうか。でもたぶんもう無効だ。そもそも自分は「行く」と了承していないし、二人の友情は昨日で終わった。  むしろ自分で踏みにじった。約束は無効だ。 『早く着替えて』 「お前に関係ない。ってかお前なんなの? 誰なんだよ! なんで俺の中にいるんだ」 『そんなの今問題じゃない。あんたがしなくちゃならないのは、今すぐ駅に行くこと』 「行かねーよ! もうアイツとは関わらない方がいいんだ。……てか俺もう嫌われてるし……」 『いい加減にしなさいッ!』  あまりの声量に思わず目を見開いてしまう。その声は確かに怒気をはらんでいた。 『あーもうイライラする』  なんでこいつはこんなに怒ってるんだ、こいつは一体誰なんだ、俺の何なんだ。俺は得体の知れないババアの霊にでも、とり憑かれてんのか?     
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