オムライス

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 心臓がドキドキして手に汗をかいたが、不思議と怖さはなかった。  謎の声はますます声を荒げる。  『結局あんたは自分が傷付きたくないだけなんだよ。卑怯者で臆病者。あの子から離れる事が罪滅ぼしなんかじゃないよ、あの子に正直な気持ちで向き合うのが、あんたが今しなきゃならないこと! そんなこともわからないって、どんだけ子供なの? さっさとしないとあんたの体でまた無銭飲食するわよッ! またママに迷惑かけちゃうよッ!』 「は!?」  この声の言っている事が正しいことなのかどうなのか貴絋にはわかりかねたが、自分でもそうしないときっと後悔すると強く感じた。とにかく、謝ろう。その後のことは、光一が許してくれてから考えればいい。  ってか無銭飲食ってナニ……?  時計を見ると、9時53分だった。貴絋は急いで着替えると、行き先も告げずに玄関を出る。「貴くんどこいくの? ご飯は?」遠くで真織の声が聞こえた気がした。  □  動悸が激しくなっているのはけして走ったからではない。こんなに緊張したのは初めてだった。光一は来るだろうか? 来ないかもしれない。それでも、最低でも一時間は待とうと決めた。     
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