オムライス

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「そっちこそ。尖ってるくせに本当は臆病じゃん」  その通りだった。そのせいで、どちらかといえばいつもは温厚な光一をこんな風に怒らせてしまったのだ。 「……悪かった」 「僕が聞きたいのは、そんなことじゃないよ」  貴絋は唇を固く結んでしばらく黙りこんだあと、覚悟を決めたように顔を上げた。 「心にもないこと言った。お前が初めて話しかけてきたとき、ほんとは嬉しかった。変なヤツだけど一緒にいると楽しい。許してくれるなら、だけど……」  そこまでいうとまた黙った。踏み越えなくてはいけないラインはすぐそこなのに、弱さが足を引っ張る。その弱さは貴絋自身が今まで背負ってきた物で、もし光一と先へ進むならここでいくらか捨てる必要があった。  光一は貴絋の言葉を静かに待っていた。貴絋は、光一がここに来てくれて、わざわざチャンスを自分にくれたんだということを思い出す。もう自分のことばかり守ってはいられない。 「……また、友達になって欲しい。勝手ばっかり言って悪いけど……俺の言うこと聞けよ、光一」  これだけのことを言うのに踏み出した一歩はとてつもなく重かったが、踏み越えた後からは、ずっと胸につっかえていたものがすっとなくなった気がした。     
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