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「初めて名前呼んでくれたね。ってかそれ許しを請う人の言い方じゃないから」
光一の声がやっと柔らかくなった。貴絋が恐る恐る彼と目を合わせると、光一は嬉しそうに笑った。
「泣きそうな顔しないでよ」
「……お前がクソ恥ずかしいこと言わせるから」
思わず袖で顔を拭う。涙は出てないはず。
「ごめんごめん、じゃ行こう」
光一は、貴絋のポケットに突っ込んだままの腕を引っ張る。歩き出した方向は、駅の外だ。
「おいっ……電車乗らないのかよ?」
許してもらえたんだろうか?
どんどん先を歩く光一を見ながら、貴絋はそう思った。
「……また友達になってなんておかしいよ。僕は君と友達やめたつもりないんだからさ」
振り返って笑う光一の瞳に涙が浮かんでいるのを見つけて、貴絋は自分の涙もこぼれないように、しかめっ面でうなずくしかなかった。
不安がないと言えば嘘になる。だけど、それ以上に嬉しさと、期待があった。そして彼の涙を見てものすごく安心した。
自分と同じ気持ちで居てくれる友達という存在が、こんなに心強いものだということをずっと忘れていた気がする。
ここに来て良かったと心底思った。背中を押してくれたあの女の声に少しだけ感謝をしなければならない。
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