焼き塩鯖

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 貴絋は目を丸くした。自分はこの松葉光一という少年のことを忘れていたというのに、この少年は自分のことを気にかけて心配するそぶりを見せているからだ。たとえばそれが社交辞令だったとしても、もし自分が光一の立場ならきっと同じ言葉はかけなかっただろう。 「ただのサボり。でも今日からはしばらく学校来る予定」  母さんが夜勤だからな。と、心の中で付け加えた。  すると、光一は目を大きく開いて熱く語る。 「うん、今週は絶対に来た方がいい。水曜日の給食にビーフカレーが出るからね。しかもデザートはプリン!」 「まじかよ。水曜最高じゃん」 「だよね!」  顔を合わせたまま、どちらからともなく噴き出す。二人ともお互いの笑顔を、この瞬間に初めて見たのだった。  □  午前の休憩時間。 「ドッジボールやるけどお前も来る?」  運動神経の良い仲間たちを引き連れて、ボールを片手に元気な少年が貴絋の席までやって来る。  一年の頃からずっと同じクラスの明吉(あきよし)は、教室で話しかけてくる数少ない友人の一人だ。だけど、飛び抜けて仲が良いという訳でもない。 「今日はパス」  今日はと言ったって、五年生になってから彼らとボールで遊んだことはないし、正直にいうとこれからも遊ぶつもりもない。それでも明吉はよく貴絋を誘ってくれる。 「そっか」  怒ることもせず、笑顔で「またやろうな」と言って走り去る。小学生ながらなかなかできた男だ。     
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