19人が本棚に入れています
本棚に追加
今日光一の母親を見て、よく似た親子だと思った。顔が似ているのはもちろんのこと、穏和な雰囲気や笑い方などそっくりで少し驚いたほどだ。それに、全然ひねくれていない光一を見ていると、大切に育ててこられたのがわかる。もちろん、自分が大切にされていないと感じたことはなかったが、自分と似た環境でも、光一はこうも違うのかと目から鱗が落ちた気分だった。
「あーそうだ、これやる」
貴絋のポケットから出されたものは、もう包装がシワシワになっている細長い包みだった。さも今思い出したかのように振る舞ったが、実はいつ渡そうかとずっとやきもきしていた。ポケットの中で握りしめすぎたせいで、包みにはもうハリがない。
「なにこれ? くれるの? あけていいの?」
「いらなきゃ捨てろよ」
光一が包みを開けると、中からはプテラノドンのモチーフの付いたシャープペンシルが出てきた。
「わぁかっこいい! さっきこれ買ってたの? えっでも僕これもらっていいの? どうして? 辻くんのは?」
「俺は勉強しないからいらねーし」
「しなよ!」
「今日の昼御飯のお礼……お母さんによろしく」
「えーっ そんなのいいのに……でもありがとう」
光一は大切そうにそれをポケットにしまった。
昼御飯のお礼。本当はそれだけではなかったが、説明するのが気恥ずかしくて言わなかった。できれば光一に気づかれませんようにと心の中で祈る。
駅から出るとき少しだけ名残惜しさを感じた。
「じゃあ俺、こっちだから」
「うん、バイバイ」
歩き出そうと踏み出したとき、光一が貴紘の名前を叫んだのが聞こえ、振り返る。
最初のコメントを投稿しよう!