オムライス(焦)

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「また遊ぼうね!」  笑顔で手を振る光一が見えた。  ここに来る前とまるで違う気分で家に帰れることを、とても幸せだと感じる。まあまあ悪くない一日だった。  □ 「おい! いるんなら出てこいよ」  自分の部屋に入るなり、貴絋は叫んだ。しかし辺りは静まり返るばかりで何の反応もない。 「貴くん帰ったの? お母さんここだよ」  うしろから声がして貴絋はすぐに振り返った。開け放したドアから、真織が不思議そうな顔でこちらを見ている。 「(かあ)さ……あ、アンタのことじゃねーよ!」  あまりに驚いて声が裏返る。  ――見られた……!! 「えっ? 誰かいるの? お友だち?」  真織はますます不思議そうに、赤くなった貴絋とその部屋を見比べる。 「違う! いいから出てけって!」 「えっ? そうなの? あ、もうすぐご飯だからね~今日はオムライスよ」  真織がリビングに行くのを見届けたあと、貴絋は小さくため息を付いた。  時折頭に響くあの女の声は好きなときに現れて勝手に消えていく。そのくせ自分が呼び掛けても何の反応もない。  せっかく礼を言ってやろうと思ったのに。  貴絋は舌打ちした後、上着を脱いでリビングへ向かった。     
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