オムライス(焦)

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「そうなの!? その割には執拗に尻尾とか斬ったりしてなかった!?」 「だって尻尾からはレアな素材が……てゆーか見てんじゃねーよ」  ……終了。  オムライスはすごく不味かった。貴絋はいつも本当に不味い真織の料理を食べていて耐性はそれなりに持っていたが、同じ日にあんなにおいしいオムライスを食べていては、その差に愕然とする。これはもはやオムライスとも……食べ物とすら言えないかもしれない。  一度料理がマズ過ぎて辛辣な文句を言ったことがあった。さあ言い返せ、怒ってみろと貴絋は期待した。しかし真織の反応は、貴絋の予想とは全く違うものだった。  涙。謝りながらそれを溢した。  貴絋が真織の泣くのを見たのは、離婚を告げられた日と、その時だけだった。  それ以来、貴絋は料理に関しては自発的に文句を言うのを止めた上、どんなに不味くても残さず食べることを誓った。ただし聞かれれば素直に不味いと答えるが。  母親の涙ほど不憫ものはないと知ったのだ。  寝る前、もう一度頭のなかで声をかけてみる。  返事はない。まだ聞きたいことがたくさんあったのに。     
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