焼き塩鯖

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 貴絋はちらりと横の席を見る。光一が友達と席を立って教室を出ていくところだった。  ――今朝買った漫画でも読もうかな。  そう思ったところで手を止める。ぎらぎらと鋭い視線を受けて顔を向ければ、女子の塊が隠すこともせずこちらを凝視していた。  □  図書室は意外に穴場だ。静かだし、教室よりうんと広い、何より人が少ない。一番奥の壁際には側面に壁の付いた机が数個並んでいて、貴絋は決まってこの席に座るのだった。ここなら漫画を読んでもそうそう見つからないし、なんなら昼寝もできる。  その席を目指して大きな机を横切ったときだった。 「辻くん」  確かに名前を呼ばれて振り返る。そこには松葉光一とその他二名が席について本を囲んだまま、こちらを見ている。ただし、光一以外は表情が明らかに固い。 「どうしたの? ランドセル背負って。もう帰っちゃうの?」  漫画を素手で持ち運ぶわけに行かないのでランドセルに入れてきたのだ。だけど考えてみれば確かに不自然きわまりない。 「漫画買ってきた。教室で読もうとしたら女どもがガン見してくるから、めんどくせーことになるかと思って」  貴絋の目には、光一以外のその他二名の顔がひきつるのが見えた。こういう顔を、貴絋はよく教室で向けられる。 「辻くんモテるもんね」     
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