ラムネ

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 だから母さんは何も言わなかったのか?  考えても思い出せないが、たぶんそういう事なんだろう。ただ、不思議とこれまでのように不安な気持ちにならないのは、だんだん感覚が麻痺してきているのか、もう気にしてないのか、気分が落ち着いているからなのか。貴紘は自分でもよくわからなかった。  教室のドアを開けて席につく。遅刻は免れた。光一が驚いた顔で貴絋を見つめながら何か言おうとしている。その前に貴絋は、光一が机の上に置いているリュックサックを目にして言った。 「何お前リュックなんか持ってきてんの? 遠足にでも行く気かよ」 「うん、行くよ、社会見学……辻くん、まさか」  貴絋はようやく周りを見た。みんな色とりどりのリュックサックを手に、楽しそうにはしゃいでいる。 「……詰んだ」  真っ黒のランドセルを持っているマヌケは自分だけだ。 「そろそろ帰る」 「今来たばっかり!!」  光一はそこから去ろうとする貴絋の腕をぎゅっと掴んだ。 「大丈夫! 荷物なんてお弁当とおやつとデジカメくらいだから! 僕の分けてあげるし、もしかしたら見学先に食堂があるかもだし! ランドセルも見ようによっては最新のリュックに見えなくもない!」 「見えねーよ! 定規刺さってんぞ」     
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