ミニトマト

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 思わず声が出る。顔面が熱くなり、すぐに蓋を閉めた。  ――嘘だろ?  一息ついたところでもう一度開ける。貴絋は回りに人がいないことを確認し、弁当を凝視した。  その中身は、とても可愛らしい所謂(いわゆる)『キャラ弁』だった。  彩りを重視した鮮やかなおかずには、おもちゃのようなピックがつけてある。何をとち狂ったかミニトマトまで入っていて――貴絋は弁当のミニトマトは否定派である――極めつけは、ご飯が可愛いパンダを模したおにぎりになっていることだ。  ――これを俺が? ありえない。  貴絋の腕に今週初の鳥肌が立った。  □  その少女は「生まれて初めて恋をした」といった。  回りのオトコは子供っぽいのばかりで、好意を持たれる事はあっても自分の胸がときめく事はない。たったの20分しかない休憩時間に、校庭で鬼ごっこやドッジボールにはしゃぐ子供など相手にはしていられなかった。  同じクラスに一人だけ、そうではない男の子がいる。名前は辻貴絋。彼は落ち着いていて誰とも話さない、孤高の人だった。かといっていじめられたりしている様子もなく、常に堂々としている。話したことはなかったが、気にはなっていた。     
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