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また、ライブ配信のため公欠をとり出向いたカフェで彼と遭遇した。なぜか体操着を着ており、嬉しそうに生クリームとフルーツがたくさん乗ったパンケーキを食べている。その顔たるや大変幸せそうな笑顔で、一目で心臓を掴まれた。いつもクールな彼が、あんなに嬉しそうに。笑っている所など見たこともない彼が、あんなにCuteに。神森ダイアナ央子は生まれて初めての恋に落ちたのだった。
その彼女が今立っている場所は公園の隅の大きな木の裏だ。今朝貴絋に渡した手作りのブラウニーを食べてくれる瞬間をこの目に焼き付けようと、こっそり後をつけた。
なぜ一人で食べるのだろう? 友達がいないわけではなさそうなのに。そんな疑問は都合のよい解釈によって一瞬で消し飛ぶ。
――なんてこと!? タカヒロは私を待ってる!? ジーザス! 私の心臓をおもちゃにするのは止めてちょうだい!
□
トマトだけ残して全部食べた。貴絋は未知なる可能性に溢れた自分の手のひらを見つめる。
――俺もしかして料理の才能ある?
だとしたら悪くない。これで真織の料理を回避できる確率が上がるかもしれない。
どうやって作ったのか全く覚えていないことが問題だが。
『おいしい?』
その時、例のあの声が聞こえた気がした。遠くで笑っているような、そんな声だ。貴絋は逃がすまいと、思わず声に出して叫ぶ。
「おい出てこい! いるんだろ?」
その発声に飛び上がったのは、木の裏にいるダイアナだった。完全に気配を絶ったつもりだというのに、彼はさらにその上を行くというのか。
――格が違うわ……。
ダイアナは観念して一歩踏み出した。
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