ミニトマト

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 光一ともう一人の少年も、それを黙って見ている。こうなることを知っていたのかそうでないのか助け船を出す様子もなく、ただ真面目な顔で直也を見ていた。 「おれ、君に悪いこと言ったから」  直也はやっとのことでその台詞を言った。今にも泣きそうな顔で俯いたまま。 「記憶にねーけど」  貴絋は興味無さそうにそう言い放った。 「君の、居ないところで言ったんだ。本当、ごめん」  その言葉を聞いた途端、貴絋は眉を寄せて苛立ちを露にする。 「んなこと知るかよ。俺の悪口言いたきゃ好きなだけ言えばいいじゃん。お前が俺の事どう思おうと何の興味もない、なんでわざわざ俺に知らせんだよ」  苛立つ反面頭の冷静な部分が、光一以外のクラスメイトと初めてこんなに喋ったな。と考えていた。  直也の顔がひきつる。  ――なんだこいつ、俺が笑顔で『気にすんな』と言うとでも思ってたのか?  ふと光一の方を見ると、彼は心配そうに直也の方をじっと見つめている。  貴絋は追い討ちをかけるように言った。 「そんなのお前がスッキリしたいだけじゃん。俺、お前と付き合うつもりなんかないけど」 「……ごめん」  か細い声で直也がさらに謝るのが聞こえた。その声は震えている。  光一が何かを言いかけようとしたのを見て、遮るように貴絋は言葉を被せた。 「けど、お前は光一の友達だから、それは貸しにしといてやる」     
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