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「覚えてねーって頭でも打ったのか? 名前もわかんねーの?」
しばらく経ってから、さも重要なことを話すかのようにゆっくりと女の声が響く。
『……ララ、享年23歳よ!』
「ララ!? ランドセルかよ! それともどっかの星の双子か! 弟はどこ! つうかフツー幽霊なら菊とか岩だろ! ってか23とかババァじゃん……」
『バ、……なんて失礼なぼうやなの!? ……まあいい。私は大人なんですからね。それより、お弁当はおいしかった?』
「……弁当? ああ、うん。……えっ?」
そのとき瞬時に貴絋の脳を、ここ数週間の記憶がバラバラと素早く駆け巡っていった。
「あれ……? もしかして、お前」
『私が作ったの。あんたの身体を借りてね』
「お前、まさか……」
弁当を作ったのも、勝手に着替えたのも、ガラスを割ったのも。全部この女の仕業だったのだ。ずっと不安に感じていたことの原因がわかり、目の前が明るくなる反面、貴絋は怒りと恐怖に戦いた。
「何でそんな事すんだよっ! おっ、お前俺の体勝手に……! そーゆうことすんのやめろよ! 超怖ぇじゃん!」
『ガラスや食器割ったのは謝るわ、あんたにケガさせちゃったんだもんね、まだよく力の加減なんかがわかんなくて……』
「はぁ!? お前……あん時俺がどれだけ恐ろしい思いを……あ! てめぇこの間言ってた無銭飲食って何の事だよ!」
『あ、ごめん……もう限界みたい。眠くなってきちゃった……』
だんだんと、ララと名乗った女の声が遠くなっていく。
「おい! 聞いてんのか?」
『……』
それきり、ララの声は聞こえなくなった。貴絋は、先程とはうって変わって静かになってしまった部屋で、結局何も聞き出せなかったことに腹を立てた。
「冗談じゃねえっての!!」
思わず拳を振り下ろしたベッドの上で、土曜日に感謝した気持ちを伝え忘れたことに気が付く。
それは、貴絋が一番最初にララに話さなければいけないことだった。
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