ブラウニー

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 次の朝早く、貴絋が教室のドアを開けると例によって光一がたった一人でそこへ座っている。 「おはよー。今日も早いね」 「……オハヨ。……あのさ、光一」  貴絋は後ろの椅子の位置を手だけで確認すると、ランドセルを静かに置いてからゆっくりと座った。 「なに?」 「その、何て言うか……」  いつもよりうんと弱々しい声の貴絋を、光一は不審に思った。それに、あきらかに困った顔をしている。 「何か悩みごと? 僕でよければ相談のるよ」 「いや……むしろお前にしか相談できないって言うか、……こんなこと恥ずかしくて誰にも言えねーんだけど」 「なに!?」  一息置いて貴絋が発した次の台詞に、光一は喜びを抑えることができなかった。 「お前、霊感ある?」 「……えっ!!」  みるみるうちに生気が満ちてくるような光一の様子を見て貴絋は引いた。  なんだこいつは。何をこんなに興奮しているんだ。また変なスイッチが入ったのか。  と、すぐに後悔する。こんなことなら知恵ズダ袋にでも投稿した方がまだマシだったかもしれない。  ――俺はバカだ。 「よくぞ聞いてくれたねっ!!」 「あっ……やっぱいいや」  聞く耳をどこかに放り投げた光一は、貴絋の呆れた様子などおかまいなしに喋り続ける。 「僕の家系は江戸時代から代々伝わるイタコの家系でね! お母さんはもちろんおばあちゃんからひいばあちゃんまで皆イタコなんだよっ! 一説によると某国の殺人事件の捜査に協力しそして解決に導いたとも言われているんだよ! そりゃあもう霊感があるなんてもんじゃないさ! 霊感バリバリfreeWi-Fiだよ!」 「お前の母さんそこの薬局で働いてる薬剤師だって前言ってたじゃん!」 「ああ、それは世を忍ぶ仮の姿だから。フン、君が食べたオムライスの中には鶏肉の代わりに地縛霊が入ってたかもな」 「適当なこと言うなよ! ああ……もう疲れた」 「違うね、憑かれてるんだ」  ()()()()()。その言葉に反応した貴絋は、思わず光一に問いかける。彼もまた、冷静な判断力を削られていた。昨日ネットで調べた除霊料金は、どこも優に10万を越えていたのだ。もう藁にでもすがるしかない。それがどんなに頼りない藁だとしても。
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