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「タカヒロ、おはよう! 夕べはよく眠れたかしら? そうそう、ブラウニーはどうだった?」
ダイアナが、朝からよく通る高い声で話しかけてくる。それもとびきりの笑顔で。
この女も霊にとり憑かれているらしいのになぜこんなに元気なんだろうと、貴絋は不思議に思った。さすが一生付き合う覚悟を決めている者は違う。
「ブラウニー?」
ケーキのブラウニーを知らない貴絋の頭に、武器を持った初老の男の姿が思い浮かんだ。背後には死んだ鹿がぶら下がっている。
ああ違う、この女に憑いてる霊の名前のことか! と、貴紘は勝手に納得した。
「どうって言われても。俺には手は出せねーよ」
「えっ……。嫌いなの?」
「嫌いもなにも見えねーし」
「ああ、わかったわ。見るのも嫌ってことね……。sorry、私の調査不足だったわ。てっきり甘いものが好きなのかと……。あなたの好きな食べ物を教えてくれる?」
よくしゃべる女だなと思いながら、話し半分に聞いた。たまに会話が噛み合わないことに気がついたが、面倒なのでそのまま合わせる。
「好きな食べ物は焼肉だけど」
「難しいこと言うのね。今の流れから言って、クッキーとか生チョコとか答えるのが普通の男の子なんだけど……だけどそこがあなたのいいところだものね!?」
そう言って彼女はそこを去った。席につくなり、多数の女子生徒に黄色い歓声と共に囲まれる。貴絋のハートを射止めたダイアナは今やクラスの女子の中で時の人になっていた。
「随分神森さんと仲良くなったんだね」
光一が意外そうに言った。
「あいつも憑かれてるらしい」
「ええっ! そうなんだ」
「道理で変な女だと思った。あいつ、ものの見事に乗っ取られてるよ」
完全に濡れ衣だった。
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