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古い本の集まる独特の香りと妙な静けさはどこか非日常的で、数十分後にはまた授業を受けに教室へ戻らなければならないことを忘れさせた。
貴絋が今目を数秒閉じればきっと、もう深い眠りに落ちてしまうだろう。
眠ってしまおうか、睡魔の誘いに応じかけたその時、真横の机の椅子が引かれた。
「なに読んでるの?」
ぼんやりとした頭で声の主を見る。光一のつぶらな瞳が貴絋の眠たげな顔を映していた。
「……委員長」
「違うってば」
机には壁が、個人のスペースを守るように存在している。光一はそれを覗き込むようにして貴絋の漫画を確認していた。
貴絋は強く瞬きをして、眠気をどうにか飛ばす。
「辻くんゴロゴロコミック派なんだ」
「うん、お前は?」
「僕は月刊ヌー派」
「そんな派閥ねえよ。 あ……朝見てたやつってそれ?」
光一の目が一瞬泳いだ。
「まあね、そんなとこ……」
「じゃ、もう俺の前では隠さなくていいぜ。誰にも言わねーし、俺だって漫画持ってきてんだから。まあでももうあんなに朝早く登校することはないか。俺はたぶん明日も早いけど」
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