減塩味噌汁

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減塩味噌汁

 鼻先を冷たいものが掠めた気がして反射的に空を見上げた。思ったよりもどんよりと曇っていた空は、貴絋が顔を上げるのを待っていたかのように雫を落とし始める。濡れた顔を肩でぬぐって下を向くと、雨の日特有の草の濡れたような匂いが香り始めた。 「降っちゃったねー。傘持ってきた?」 「ない」  せっかく遊べると思ったのに、外がこれじゃどこにもいけないじゃないか。貴絋はつまらなそうにパーカーのフードを被った。 「じゃーな」と言おうとしたとき、先に光一が口を開く。 「そうだ! 宿題一緒にしない? 図書館とかで」  そう言われてすぐに、しぼんだ心が膨らみ始めるのがわかった。なぜか勝手に、公園でキャッチボールをしようと思っていた。しかしよく考えたら、光一はそういう遊びをするタイプではなかったのだ。 「……そこまで行くなら俺んちの方が近いけど」 「行ってもいいの?」 「いいだろ」  あの家に友達を連れていくのは初めてだった。むしろ、前に住んでいたマンションですら、ここ二年以上友達を連れて帰ったことがない。  こう言うとき、親に了承を得ないといけなかったんだっけ? 前までどうしてたっけ。     
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