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貴絋はふと疑問に感じたが、どうせ帰っても誰もいないことを思い出した。
□
二人でひとつの傘を差し、貴絋の家に向かっている途中、あるバス停を通りすぎようとしたとき光一が突然歩みを止める。
そんな光一の様子に気が付かない貴絋はそのまま歩みを進め、彼の持っていた傘の内側に思い切り顔をひっかけてしまった。
「おいっ! 急に止まんなって……」
反応のない光一の視線の先には、屋根の付いたバス停のベンチに座っている女性の姿があった。眠っているのか、じっと俯いている。
「あの人……大丈夫なのかな」
「……バス待つのに寝てるだけじゃん?」
光一は訝しむように女性を見つめた。
「でも……ちょっと行ってくる」
「オイ、ほっとけって!」
貴絋の言葉も聞かず、光一は半ば強引に傘を貴絋に押し付けると駆け出してしまった。
「まじかよ」
思わず舌打ちをして、貴絋もその後を追った。
近付いて見るとその女性は青い顔をして、こめかみにはうっすらと汗がにじんでいた。眠っているように見えたのは、目を閉じて苦しさに耐えていたのだった。
「大丈夫ですか?」
光一が声を掛けると、女性は辛そうにまぶたを開く。
「……大丈夫」
全くそうは見えない、彼女に余裕がないことが、初対面でもありありと伝わってきた。
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