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「救急車呼びますけど」
「……病気じゃないから」
「でも、その様子じゃバス乗れないですよね」
「しばらく休んだら……乗れると思う」
「でも……、」
「もうタクシー呼ぶぜ?」
押し問答を続ける二人を見て埒があかないと判断した貴絋がやっと口を開く。
二人は同時に貴絋を見上げた。初めてその女性と目が合った貴絋は、思わず視線を反らす。女性は思ったよりも随分若く、美人だった。
「そうだね……じゃあ、お願いしようかしら……ごめんなさい。今日に限って携帯電話を忘れてきたみたいで……」
「僕電話あるとこ知ってる! 行ってくるね、君はついててあげて」
すべて言い終わらないうちに光一は走っていってしまった。貴絋は一人分の距離をあけてから、彼女の隣に座った。
――気まず……。俺が行けば良かった……。
何か元気が出るような言葉をかけてやればいいのだろうか? しばらく考えたが、気の利いた文句が思い浮かばない。
居たたまれなくなった貴絋は思わず立ち上がり、自販機で水を買った。くるりと向きを変えてベンチに戻ると、一呼吸置いて女性に声を掛ける。
「大丈夫? これ飲めば」
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