減塩味噌汁

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 あまり着飾っていない地味な格好の割には華やかな顔の女だった。それでも顔色が悪いのは、化粧品を塗っていないからなのだとわかる。 「ありがとう……」  女性は貴絋からペットボトルを受けとると蓋を開けようとしたのだが、一向に開く気配がない。 「どんだけ力ないの」 「すみません……」  貴絋が代わりに開けてやると、飲んだのか飲んでないのかわからない程度に口をつけた。 「少し気分がよくなったみたい……」  青い顔でつく見え透いた嘘が痛々しい。よっぽど苦しいのか、目に涙まで浮かべているのを見て、貴絋はぎょっとした。 「……なんでこんなとこに居んの」  何か話さなければと咄嗟に出て来た言葉はなんともぶっきらぼうなものだった。  女性はパン屋の紙袋をぶら下げている。ここらで有名な店の袋で、貴絋も何度か食べたことがある。午後にはもう売り切れてしまう店なので、もしかしたらしばらくここで苦しんでいたのではと思った。 「今日ね、夫の誕生日なの……。ここの近くに彼の好きな食べ物のお店があって……。テイクアウトの予約をしていたんだけど、ここで動けなくなっちゃって」 「へぇ。なんて店」 「あの、あそこのデリカテッセンのお店……オレンジ色の壁の……名前がわからない」 「あーわかった、そこなら知ってる。俺取ってきてやるよ。予約してんだろ? 名前は」     
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