減塩味噌汁

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「そうなの? どうして?」 「あの人お腹ん中に子供がいるんだって。よくわかんねーけど、今食べたいと思ったものが買った瞬間に大嫌いな物へと変わったり、吐き気したり、体液をあらゆる所から噴出したり、眠くなったりとそれはもう毎日が拷問のようだって言ってた」  光一は目を丸くして、黙ってそれを聞いた。 「ツワリ? って言うんだって」 「それなんか聞いたことある」  貴絋は、自分が一生味わうことのないであろう現象のナマエを聞いたとき、それが彼女の本当に疲れはてた様子と合わさって、軽く目眩がした。  続いて、そのような状態でもあるに関わらず夫のために出掛ける覚悟を持った彼女の精神にも怯えた。 「俺にはわかんねーな」 「僕たちもそうやって産まれてきたのかな」  光一のその言葉を聞いて、すぐに真織の顔が浮かび、次の瞬間には消えた。今まで不思議と考えたこともなかった、初めて浮かんだその疑問が、貴絋の胸の内を少しだけ暗くする。  ――俺は誰から産まれてきたんだろ?  しかしその疑問は光一の腹から発せられた奇怪な音によって瞬時に打ち消された。 「プッ……! スゲー音。腹で妖怪でも育ててんのかい?」 「走ったからお腹すいちゃった」  光一は恥ずかしそうに笑った。     
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