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「光一くんね! いつもお世話になっています。そうだ、なにか飲む?」
嬉しそうにキッチンへ急ぐ真織に、貴絋は言った。
「もういいから。部屋で宿題する。行こーぜ、光一」
「えっ? あ、……うん、じゃあ、失礼します」
「ゆっくりしていってね!!!」
リビングのドアを閉める瞬間まで、真織は笑顔だった。
貴絋の部屋に入るなり光一が目を輝かせて捲し立てる。
「辻くんのお母さんめちゃ美人じゃん! 若いし、綺麗なお母さん羨ましいなぁ。何歳なの?」
「別にフツーだろ……何歳とか知らね。それに俺からしたら美人より飯が作れる方が羨ましい。ま、適当に座って。ゲームする?」
そう言って貴絋は、床に座った光一にゲームのコントローラーを渡した。
「辻くんってお母さん似?」
「……いや全然」
「そうかなあ。でも似てるよ、目の感じとか」
光一は、この話題を嫌がる貴絋の空気と陰る瞳を察知できなかったことを、次の一言を聞いてからとても後悔した。
「似てねーよ。血繋がってねーんだから」
光一の体温は一気に下がった。そっぽを向いたまま目を合わせてくれなくなった貴絋の様子で、これはいつもの冗談ではないということを理解する。重い空気だけが二人の間を蠢いた。
「……ごめん僕、余計なことを」
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