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焼き塩鯖
少年は夢を見た。視覚と聴覚だけでなく、説明できないような感覚をも体験した夢だった。胸の奥から押し潰されるような、とても説明することが難しい、一言で言うなら「苦しい」夢だ。
起きて数時間経とうともありありと思い出せるその夢は、日を跨いで同じものを何度も見る。それを見て起きた朝は、大抵シャツの背中がびっしょり濡れていた。それに気分が最悪だ。最上級の絶望と悲しみをブレンドして、無理やり口から体の中に押し込まれたような。
いつからこの夢を見始めたのだろうか。おそらく、一年以上前から。
「またかよ……」
遮光カーテンの隙間から入り込む爽やかな光を横目にいつもならもう一眠りするところだが、今はそんな気分になれない。汗で気持ち悪く濡れたシャツを脱ぐと、ヒヤリとした部屋の空気が背中を撫でた。思わず泣きそうになる。こんな時、誰かが「どうしたの? こわい夢でも見たんでしょ?」と優しく声をかけてくれればどんなに心が休まることか。例えば暖かい朝食を用意してくれている最中の、母親とか。
リビングのドアを開けたが、そこには今日も誰もいなかった。もう四月も終わるというのにまだ少しだけ肌寒い。
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