僕と過去と思い出の場所

2/3
49人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ
 茜に会わないと。会って話をしなきゃ。 そう分かっていても……僕は茜と話をすることを恐れていた。  もう7月。夏休みになったら、僕はきっと会わなくて済むことに安堵してしまう。そしてもう、話そうとしないのではないか。……茜と向き合うことをしなくなる。だから僕は茜と話すことを決めた。今まで僕は茜のことを避けてきた。もう、茜は僕と会いたくないかもしれない。それに……僕自身も心の準備をしたかった。だから僕は手紙を残して茜を呼び出したのだった。 『今日の放課後、あの場所で待ってる。茜が僕のことを許してくれるなら、会ってほしい。』  茜は、来てくれるだろうか。 もう僕のことなんて嫌いになってしまっただろうか。 そう思いながら僕はあの場所へ向かっていた。 あの場所とは……丘の上に大きな桜の木が1本だけある、子供の頃に僕と茜が一緒に遊んだ場所。あの頃の僕達はそこを《秘密の場所》といっていた。今では桜ヶ咲高校の由来にもなっている場所。 まさか戻ってくることになるなんて思ってなかったけど。  僕の親は僕が子供の頃に離婚した。多分、僕が小学校高学年に入ったころだったと思う。その時、僕は何も知らなかったから急な事だったと感じられたんだけど……きっとその前から前兆はあったんだろう。  僕の父親はいわゆるドメスティック・バイオレンス、つまりDVでことある事に僕を殴ってくる父親だった。 『お前なんて……お前がいるから!』 『お前なんかいらなかった!』 こんなことを言いながら。でも……。 僕はずっと、お母さんにバレたくない一心で隠していたんだけど……多分全部知られていたんだと思う。 だからこそ僕のために、お母さんは僕のお父さんと別れて僕を育ててくれたんだと思う。そう、僕のために。だけど……僕はお母さんが夜に泣いていることを知っていたんだ。 『潤さえ、いなければ……』 『あんな子いらなかったのに……』  そのときに僕は自分が必要とされていないと改めて知った。 最初から僕は『いらない子』だったんだと。 それでも僕は、お父さんにやっていたことと同じように笑顔で何も知らないふりをしていた。今はいらないと思われていても……いつかは必要としてくれるかもしれない。心では嫌われていても、僕が耐えれば、いつかは。そんなことを思いながら。  だから僕は生粋の『嘘つき』なのかもしれない。本音で話したことなんてないんだから。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!